Voice 027. 一致団結 ~オール心理学によるチーム心理学の姿勢を!~

匿名希望

 平成27年9月9日。時は来た。公認心理師法成立。


 何よりも公認心理師法の成立を願っていたはずなのに、いざその時が来たら、喜び以上の緊張感が身体を走った。もちろん喜ばしい気持ちもあるし、何より法成立に向かってご尽力下さった先生方には心から感謝の気持ちでいっぱいである。僕のような一介の心理職には想像もつかないような苦労の連続であっただろうことは、心理学・心理職の歴史からも推察出来る。


 今、我々が歩んでいる場所は、心理学がまだ歩いたことのない未開の地である。僕らは航海に出た、ゆるぎない魂に南向きの帆を立てて…一歩先に何が待ち受けているか、今はまだ見えない。成立祝賀ムードに浸りながらも、ひしひしと伝わる緊張感。だからこそ、新しい心理学の大地は、様々な知恵と知見を持つ【心理学仲間】で手を取り合い、一致団結して歩みを進める必要がありそうだ。


 昭和47年に起こった「あさま山荘事件」で警備の指揮を執ったことでも知られる評論家の佐々淳行氏の著書「平時の指揮官 有事の指揮官~人を動かすには、何が必要か」の中で、組織が強化されていくために不可欠な3つの要素を挙げている。

それは「共通の目的、それに伴う役割意識、そしてそこから派生する仲間意識」であると述べている。我々には、この生まれたばかりの新しい国家資格をどう育むか、育てるかを考える共通目標があり、それは揺らぐものではない。


 重要なのは、ここで述べる“役割意識”と“仲間意識”ではないだろうか。率直に述べて、今まで心理学が一枚岩になりきれなかったのは、様々な遺恨があることを耳にしている。今までそれぞれの土壌を築いてきた様々な心理学領域があり、しかしそれぞれが相容れる機会が少なかったのではないだろうか。そこには様々な事情があったことは想像に難くない。ただ、フィールドは変わった。


 筆者は心理職として総合病院に勤務している。主に他職種連携を基本とした立場で仕事をしているが、立場も視点も価値観も異なる多くの職種が一同に介するとき、様々な意見が飛び交う。治療、ケア、患者さんの人生の物語、家族支援、現実的な困難等、それぞれ見ている視点は違う。しかし、共通する視点は“患者さんと家族の幸せ(QOLの向上)と負担の軽減”であり、この視点があるからこそ、協働が成り立つのではないだろうか。治療があるからケアがあり、ケアがあるから患者さんは語ることが出来、語るから現実の困難が理解できる。ただし、いずれかの立場が優位性を主張した時、このバランスは崩れてしまう。医療現場において治療が優先なのは当たり前であるが、治療を優先するあまり患者さんの言葉を聞くことを怠ってしまうと、患者さんは取り残されてしまう。それぞれの役割が重要である。

筆者は、多職種協働が成り立たないチームには、ほぼ【丸投げ・対立・丸抱え】のいずれか(もしくはすべて)の現象が必発していると考えている。


 心理学の可能性を日々追求している研究者、クライエントへの支援を行っている現場の心理職、そして研究者や心理職を育成する教員。今までのように、どこかに誰かに丸投げしている場合ではない。学問や学派で対立している場合ではない、自分が優位だと丸抱えしている場合ではない。そして何より経験年数や立場、業績の有無によって意見が封殺されることがあってはならない。各年代がそれぞれに培ってきた知見、知恵を今結集する必要がある。中堅であろうと若手であろうと一切関係はない。そして、それらの全ては心理学のレベル向上に寄与するため、そしてそれが対人支援に役立てるためであることを忘れることなく、我々は自覚を持ち役割意識と仲間意識というタッグを組む、いわゆる【オール心理学によるチーム心理学】という姿勢が必要ではないか。私は、公認心理師の中身の充実、行く末の明るい展望はこのような姿勢から始まると考えている。そのために今、私たちに出来ることは何なのかを再度しっかりと考える必要があるのではないだろうか。