Voice 008. 推進派のコメントから見た国家資格

赤嶺遼太郎(若手臨床心理士)

 はじめに、私は現在の公認心理師法案に賛成、推進の立場です。今回、日本臨床心理士会の代議員選挙で、心理職の国家資格化について推進、慎重・反対(修正)、それぞれの立場の立候補者の方々から様々なコメントが公表されているのは、とても画期的な出来事だと思います。

 しかし、沢山の方が、様々な事を言っており、推進派としてどのような意見を持っているのか、何を目指し、何が足りないのか、イマイチはっきりしません。そこで私は公表されたコメントについてテキストマニングを行い、推進派のコメントから分かる特徴や懸念することを、私なりにまとめてみました。

 本HP日本臨床心理士会代議員選挙特設コーナーに掲載された推進派29名のコメント(2015/02/16に取得)をテキストマニングのためのフリーソフトKH Coder(樋口,2004)を用いて分析しました。強制抽出語として「日本臨床心理士会」「臨床心理士」「心理臨床」「臨床心理」「国家資格」「公認心理師」、抽出しない語として「思う」を指定しています。

 推進派は「国家資格」が最も出現頻度が多く、次いで「臨床心理士」「心理職」となっています。「社会」「関係」「団体」「職種」という言葉も見られます

(2)共起ネットワーク

 各コメントの中で共によく用いられる特徴的な語を線で結んで示しています。「国家資格」と「臨床心理士」、「実現」と「公認心理師」が同じコメント内でよく用いられることが分かります。また、「関係」と「団体」「努力」「職種」という結びつきも見られます。他を見てみると「心理職」と「社会」が、「資格」と「専門」が同じコメント内でよく用いられるようです。

(3)推進派のコメントの特徴

 最も出現頻度が多い「国家資格」に焦点を当て、コメントに特徴的な語がどのように用いられているのか、具体的文脈を一部抜き出しながら示したいと思います。

 

 1)「公認心理師法案」の早期実現

・これらを確立するために必要国家資格公認心理師法案の早期成立を推進すること

国家資格化に時間をかけることは許されません。

 2)社会的ニーズへの応答

・行政機関からも、多くの当事者からも、心理職国家資格を取得するよう望まれていることを日々の活動から感じます。

国家資格は特定の個人や団体の為のものではなく、日本で暮らす生活者のためのものです。

・多くの方々が心理職国家資格がないことに驚かれます。

・これまで蓄積されてきた専門的な知見を、社会からのニーズにこたえながら発揮し続けるためにも心理職国家資格化は必要不可欠です。

 3)他専門職や関連職種との連携

・他専門職や行政との連携をより深めていく上で、心理職国家資格ではないことによる限界が現実のものとなってきたからです。

・少しでも私たちに有利な形での国家資格を望むのは当然です。しかし、あまりにも自分たちのアイデンティティだけを守ろうとすることは、かつてそうでもあったように、内外の他専門職との間に必要以上の軋轢と対立構造を生むだけです。

・既に国家資格を有する多職種の力量とこの領域への参入という局面にいます。

 4)臨床心理士・心理職の発展

国家資格を得たからと言って、経済的立場などが急に好転するという楽観的見通しは持ってはいませんが

国家資格制度を見据えて、開業心理相談機関の登録制度、相談機関開設のガイドライン、開業臨床心理士をつなぐ場の創設を含む、様々な事業を検討してきました。

国家資格成立後は、速やかに臨床心理士の叡智を結集して、今後の発展に向けた活躍のパラダイム創造が必要と考えています。

国家資格化された後、心理職のさらなる充実にむけてさらなるリードをとっていきましょう。

 5)国家資格でないことによる心理職・ユーザー双方の不利益

心理職国家資格でないために、必要な方々の一部にしか支援が届かない事態が生じていることも事実です。

国家資格でないことからくる活用の困難性があるので、国民のためにもそれらを解消できる資格が、臨床心理士とは別に必要です。

・これに失敗すると、国家資格化の可能性は永遠にゼロになります。

・今この時期に国家資格化されなければ、さまざまな制度の中から心理職の職名が消えていく危機感を現場にいるからこそリアルに感じています、

国家資格が成立しないとなると、現在既に産業・組織領域では国家資格ではない(質的担保が保証できない)という理由から、ストレスチェック制度への実施者としての参画を認められていません。

 6)歴史的背景

国家資格のために関係機関並びに国会議員との方々との交渉に労を惜しまず努力してきた日本臨床心理士会の活動を

心理職国家資格については25年以上も関係諸機関との間で、議論・協議がなされてきており

・20年を超える心理職を取り巻く社会状況の変化と、それに伴う国家資格化の流れを振り返る時

 約25年に渡る、関連機関・職種との議論、協議、調整に尽力された諸先輩方に感服しています。臨床心理士の専門性や発展、経済的安定を願いながらも、時代の流れや社会からのニーズ、関連職種との関係など考慮しながら、微妙なバランスの元に辿り着いたもの公認心理師法案であること、国家資格化後にも大きな課題が沢山あり臨床心理士がリードしていく用意があることがよく分かり、大きな期待と好感を持てます。一方で、より詳細な法案への言及が少なかったり、法案成立後の具体的な動き、移行措置の範囲への考え方や働きかけなどが不透明であったりすること気がかりです。

 現在、公認心理師法案のバランスを維持するものがあまりに多様で、少し聞いただけでは法案の早期実現の重要性があまりピンと来ないかもしれません。この記事が皆様の法案への関心を引き、判断の良い材料になれば幸いです。


【引用】

樋口耕一 (2004). テキスト型データの計量的分析 ―2つのアプローチの峻別と統合― 理論と方法 19(1) p101-115.

公認心理師推進派ネットワーク(このHP内) 日本臨床心理士会代議員選挙特設コーナー URL省略 最終取得 2015/02/16