Voice 002.  二酔人経綸問答-医師の指示についてー

            田代信久(帝京平成大学)

 没談国事(呑みながら政治を語る勿れ)などという張り紙のない店である。

 樽から出したばかりの美味い清酒を飲ませるが、店内は一枚板のテーブルに椅子という質素な調度で、テレビも有線の音楽もかかっていない。

 つまみの類は鮪のぶつ切り程度で勢い清酒を升で勢いよく呑むこととなる。

 いい加減に酔っている心理のセンセと精神科のセンセ、この二酔人は多数の同職業のセンセイさんたちから寄せ集めて造った人なのでゆめゆめ中の人を読者諸氏は詮索するなど無粋なことをしないで頂きたい。

 

心理のセンセ:昨今ですねえ(酔っているのでお互いぞんざいな口の利き方である)、公認心理師法案のことで巷じゃ、精神科のセンセイ方の指示で箸の上げ下げまで決められるってえ~騒ぎなんですがねえセンセさんよ、お医者のよお~内輪じゃどう考えてるんですかねえ。

 

精神科のセンセ:そりゃ~まあ~センセ、こっちもよ忙しいんだよなあ。保険診療で食い扶持稼ぐために朝から、混んじゃうとクラークさん、看護師サンから急かされ、三分で昼飯喰ってだな、ウン十人も診なきゃならんのよ、心理の方々の箸の上げ下げはもちろんのこと、仕事にアレコレ言う気もないしねえ、わらわも薬物療法して、ある程度OKだから心理の方に「心理療法等であとよ!!!く」ってことだね指示っていうても。

 

心理のセンセ:ほんとですかい?うーん、どーもわかんねんなあ~指示ってえのはもっとガチガチガチャガチャといろいとを上から言うのじゃないんですかい?酔ってるからってテキトーなこと吹いてるんじゃないんですか?

 

精神科のセンセ:おいおい疑い深いな~心理のセンセイーは猜疑心が強いのかねえ(笑・・・大体、精神科のセンセは新しい薬物療法の知識のアップデイトやクライエントの薬の副作用、身体疾患のフォロー、診断書、手帳の申請やら介護保険のあれこれ書類仕事でよお手一杯なんだよ。

 

心理のセンセ:まあ、そりゃまあ確かですわな。バビンスキー打診器でガンガン(笑)クライエントのあっちこち叩いていましたからねえ。

 

精神科のセンセ:ガンガンとは外聞がわるいなあ~かる~く打診するやり方があるの(笑)、つまり、神経疾患なんかも考えなきゃならないし、とにかく、心理職の世界に手をズケズケ突っ込む気は無いんだよ。時間もないしね。職分というか職掌が違うってのは理解してるつもりなんだ。

 

心理のセンセ:確かになあ、そうですわな・・・センセと組んでいて司法精神鑑定をするときにもここを知りたいって点だけは「指示」(笑 すっけどよお、検査の種類なんざ、指示されなかったよなあ・・・

 

精神科のセンセ:あったりまえだのクラッカー、「指示」と言ってもこれを見たい知りたいから検査お願いって事なのよ。で、あとは心理側が最善を尽くしてくれるという信頼が根底にあるんだよなあ。専門職同志の信頼感ってヤツだなあ。

 

心理のセンセ:すいませんがあと五合徳利一本持ってきて(店主へ)、--ふう~随分呑んだな、一人五合は呑んでるな--なるほどねえ、ってことはデスねえ、指示つうコトバが入っても何ら変わらないって理解でいいんですかねえ?センセイさん

 

精神科のセンセ:ちょっとタンマ(目の前の一合升を飲み干し)、その通りだと思うよ。ようするに、資格化されて、医療の世界で一緒に仕事する上ではやはり最終責任は医者の側にあるから、まあ「指示」つうコトバになる訳だけなんだなあ・・・それだけのことで、上下や仕事を仕切る仕切られるってことじゃないんだよね。

 

二人の内心:飲み過ぎて明日辛いねえ